鑑定業務の効率化を目指す「AI鑑定」。未知の課題に対する孤高の挑戦

REPORT
2020.09.18

今回は、AI鑑定を用いて、クルマ鑑定に費やす工数を改善するプロジェクトを推進しているセバスチャン氏へインタビュー。

これまで、様々な研究開発に携わり実績を残してきた彼の研究開発に迫ってみたい。

AI鑑定システムの研究から出てくる課題と、それに対する彼の挑戦、そしてAI鑑定がもたらす未来を、インタビューの中から感じ取れると思う。

レッティグ セバスチャン ペーター Rettig Sebastian Peter
2015年入社。AIテクノロジー推進室 沖縄に所属。
自社内の課題解決にAIを使って効率化を目指しながら研究開発を行う。
アプリ開発、承認チェックAIシステムの構築、フロントエンド・バックエンド開発など、プロジェクトの内容よって担当を変えられる守備範囲の広さと、すべての開発を一人で行うマルチエンジニアとして従事している。

クルマの傷、凹みを自動で検知する「AI鑑定」の開発目的は?

目的としては、クルマ鑑定物件数の向上です。

現状はクルマ1台あたりの鑑定所要時間が約20~30分かかってしまうことと、鑑定者の不足が課題として上がっていました。

鑑定後のレポートもデータとして手動で入力しないといけないので時間と手間が発生していました。

そこで、機械学習を使ってクルマを自動鑑定し、鑑定後のデータもそのまま蓄積されていくシステムを作ることで、鑑定にかかるコストを削減できるのではないのか?

そういった思いから、AI鑑定システムをプロトタイプとして開発することに至りました。

オンラインインタビューを受けて頂いたセバスチャン氏

クルマ業界で「AI鑑定」を導入しているところは多いのでしょうか?

AI鑑定というよりは「AI査定」になりますが、最近ニュースに出てきたのは保険会社向けのスマホアプリです。
事故があった時に、自分のスマホでクルマの障害を撮影して保険会社に送ります。障害レベルや修理コスト予算はAIで判断するそうです。事故障害は画像でわかりやすくて、判断しやすいと考えます。

一方で、「AI鑑定」だと、事故直後ではなく修理済みのクルマに対しておこなうことが多いです。
傷や凹みなどを検知して、修理のあったクルマなのか? そうでないクルマなのか? の判断をします。
難易度としては上記の保険会社がおこなう事故車分析より高いです。

鑑定対応サービスは現在プロトタイプな状態ですので、導入している企業はほとんど無いですね。

そのAI鑑定ですが、どういった人たちに利用してもらいますか?

「アジャスター」と呼ばれる鑑定者が、クルマを鑑定する時のツールとして利用してもらうことを想定しています。事故車などを鑑定するプロフェッショナルの方々ですね。

開発でフォーカスしているのは「外装部分」。
外装のキズや凹みを画像認識AIへ学習させます。 クルマの撮影画像を傷・凹みのセグメントに分析し、障害レベルを評価していくという流れをAI化することで、鑑定にかかる所要時間を削減させることが可能になります。

インタビュアー福田(筆者)

開発に使用した言語やツールなどは何になりますか?

開発については機械学習基盤から実開発まで、使う言語やツールは多岐に渡ります。

機械学習開発
 →python, Pytorch, fastai, Tensorflow, 機械学習基盤(ML-Template, ML-Core)
API開発
 →python, javascript, HTML, CSS
APIディプロイ
 →docker
Androidプロトタイプ開発
 →Java, C, Tensorflow-lite

ちなみに今回のプロジェクトで使っている機械学習基盤は私が作ったもので、社内にある単純作業などを自動化するための基盤として少し前にリリースしたものになります。
これに関してはbacklogへアップロードして他部署でも使ってもらっているんですよ。

会社で一緒に働く仲間たちにも、私が作ったツールボックスを使っていい環境になるように、社内スタンダードにできたらと考えています。

学習基盤は自作なんですね。既に横展開ができているとは驚きです!では、開発で直面した課題について聞かせてください。

まず、AI学習には大量の教師データが必要になります。その教師データを作り出す作業を「アノテーション(意味付け)」と言って、高い精度を追及するほど沢山のアノテーションが必要となります。

傷や凹みの形はどれも全く同じものはなく、小さい、大きい、長いなど様々です。そういった傷や凹みをマーキングするツールが足りなかったため、自分でアノテートツールを開発しました。

あと、私自身が鑑定者ではないので、アノテート後の判定結果のジャッジが難しく、専門家の確認が必要なこともありましたね。

また、今回のプロトタイプを簡単に作成できる基盤がないため、環境実装が必要でした。こちらは先ほど話した学習基盤(ML-Template, ML-Core)のことです。 学習基盤もそうですが、ツールがなければ自分で作ることはあります。

色々ありますが、チャレンジポイントとして捉え、ひとつずつ課題を潰していくことが研究開発には大事なことです。好きじゃないとできませんね(笑)

さて、気になるAI鑑定システムのリリース予定はいつ頃でしょうか?

リリース予定はまだ決めていないです。

と言うのも、クルマ鑑定物件数の向上という目的はあるものの、鑑定業務の効率化ができるか?の研究開発になりますので、まずはフィジビリでやってみて上手くいけばプロダクト化する。という感じですね。

あくまでも研究開発をするのが私のミッションですので。

ただ、鑑定者に便利なシステムになることは間違いないです。 このAI鑑定が上手くいけば、「ヒトが足りない、時間が無い」の両方が改善されるわけですから。

今後の展開について聞かせてください。

まだ研究開発中なので何とも言えないですが、今掲げているチャレンジ点を解決できれば、プロトタイプシステムを実装するつもりです。

その後、クライアントのテストフェーズを行い、将来的には鑑定サービスとして展開したいと考えています。 遠い未来には、誰でもスマホで鑑定できるようになるかも知れないですね。

あとがき

画像認識技術を駆使し、AI鑑定システムの開発を進めるセバスチャン氏。

単身、幾度となく繰り返すテストと実装の中には、数えきれないほどの課題に直面する。

それを「チャレンジポイント」と称し孤高に研究を重ねる姿に、エンジニアとしての気高さを感じた。

AI鑑定システムが彼の手からリリースされる日が来れば、クルマ業界が大きく変わるかも知れない。

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インタビュアー:福田 聡樹(ふくだ さとき)

株式会社プロトソリューション Webマーケティング部所属。自社ホームページ編集長。ブログ/インタビュー/動画などのコンテンツを使って、プロトソリューションのサービスやタレント情報を発信しています。
好きなもの:爬虫類全般、本のにおい。

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