「沖縄で新しい文化を創る」
シェアサイクル事業『CYCY(サイサイ)』にかける想い
2019年10月、BPO事業やAIでのソリューションビジネスを展開するプロトソリューションに、新たな事業が発足。
~沖縄MaaSへ向けたシェアサイクル事業『CYCY(サイサイ)』~
新規事業としてスタートし、瞬く間にステーションの拡大・行政との協定まで実現させたのは、CYCY事業責任者の佐々木。
新規事業発足の経緯や、今後の展望についてインタビューしました。
「観光立県 沖縄」の交通渋滞という社会課題に直面
――― シェアサイクル事業『CYCY(サイサイ)』立ち上げの意図は?
沖縄に移住し、沖縄県内での不動産企業への営業をする中で、沖縄県内の交通渋滞が抱える課題に直面しました。
これは移住前からも耳にしていましたが、実際に移住して実感しましたね。
入社してからメディア事業部に所属する中で、「グー沖縄」というクルマ情報・モビリティを身近に取り扱うようになり、改めてこの社会課題を解決しなければと思ったのがきっかけです。
当社では、新規事業を推進していこうという企業文化があり、私もいくつか事業案を出しています。
事業案の軸として、自分の中でやる!と決めていた分野に「シェアリングエコノミー」がありました。
沖縄に移住する前は、自転車に乗る風景が当たり前だったのですが、沖縄に移住してみたらほぼ見ない。
逆にそこにビジネスチャンスを感じました。
――― 沖縄の交通渋滞がもたらす経済損失
沖縄の交通渋滞は、内閣府沖縄総合事務局調べによると「沖縄県の人口1人当たり渋滞損失時間は約47時間/年」というデータがあります。
沖縄県の産業、経済の中心である那覇都市圏の交通状況は、朝夕の平均旅行速度が15km/hであり、東京、名古屋、大阪などの大都市に匹敵する混雑状況といわれています。
観光立県として各国からの観光客が集まる沖縄では、レンタカーの使用比率も高く、交通渋滞は加速度的に広がっています。
交通渋滞を解消することができれば、観光客の周遊による経済活性はもちろんのこと、地域住民の利便性向上、そして環境への配慮も可能になるため、自転車の持つ可能性は大いにあると感じています。
そして、自分の暮らす沖縄がより良い姿になれば、自分の身近な人たちのためにもなるのでは!と思い、シェアサイクル事業の企画をスタートしました。
不動産メディア立ち上げ・事業化の経験から知る「沖縄の住宅事情」
――― 「沖縄の人は自転車に乗らない」常識を覆す事業を
可能性を感じたこのシェアサイクル事業の提案ですが、実は何度も却下されたんですよね。
却下の理由が「沖縄ではみんな自転車に乗らない」というものです。
徒歩2分の距離をクルマに乗るような文化の中で、自転車ビジネスは難しいのでは、というものでした。
実際に、地域別自転車保有台数としては、平成30年1世帯当たり保有台数は0.695台と、ワースト2位となっています。<出典:自転車産業振興協会「平成30年度 自転車保有実態に関する調査報告書」より>
他にも色々調査しましたが、沖縄では自転車が普及していないというデータばかりでした。
そのような中でも提案し続けていたのは、「いける!」という直感と、「ここで自分がやらなくてもきっと誰かがやる」という考えがあったからです。
その「誰か」に負けたくなかった、というのが強い想いでしょうか(笑)
「自転車に乗らない」という常識があるなら、その常識・文化自体を変えたかったんです。
――― 沖縄の住宅事情から知る「自転車に乗らない」文化と逆転の発想
ただ、「シェアサイクル事業をやりたい」という発想だけでは、既存イメージを覆すには至らなかったのは事実です。
そこで、当社で運営している不動産情報「グーホーム」に目を向けました。
様々な物件を目にしてきたのですが、新築物件でも駐輪場のある物件は少ないです。
企業側にきいても、駐輪場スペースを設けるより、駐車場のスペースを用意したいという話が多かったですね。
駐輪場がないから自転車を買えない、という点に着目したら「シェアサイクルならいけるのでは」と気づきました。
そこからは、「シェアサイクル事業をやりたい」から「暮らしに密着した移動手段を提案したい」と着眼点を変更。新規事業としてGOサインが出たのはこの頃ですね。
――― イベントを通して知る沖縄県民の想い
「自転車に乗らない」と思われている沖縄県民ですが、先ほどもお伝えしたように、自宅に駐輪場がないという制約があります。
現在はCYCY(サイサイ)でイベントをやる事が多いのですが、実際には自転車に興味・関心の高い方が多いですね。
「電動アシスト自転車自体が高いのもあるけど、駐輪スペース自体がない」
「自転車のメンテナンスが大変」
そういった事情から、買いたいけれど所有には至っていない県民性も見えるようになってきました。
シェアサイクルは、交通渋滞という社会課題と乗りたいけど所有できない県民課題とをつなぐソリューションである、と実感し、今後の展開が更に楽しみになりました。
自分の大切な人たちがいる「沖縄」を良くしたいという想い
――― ステーションの拡大とシェアサイクルの利用用途
現在(2020年3月時点)は32のステーションがあり、100台を超える電動アシスト自転車を稼動しています。
自転車に搭載しているGPSで、利用者のルートを見ることができるのですが、利用用途は本当に様々ですね。
内閣府 沖縄総合事務局と共同で行っている実証実験で、沖縄県北部(本部や名護エリア)に重点的にステーション設置したのですが、恩納村以北エリアでは2~3時間の利用が多く、観光的な使い方が多いです。
ただ、宜野湾以南エリアは30分くらいの利用が半分を占めます。
日常利用として、駅から駅、通勤などといった使い方も目立ちます。
面白いルートとしては、船に積んで離島を散策していたり、本部から那覇までの長距離を移動していたり。
移動ルートの情報を活用すれば、地域振興や経済活性化にも活用できるので、ビッグデータとして更に蓄積していきたいと思います。
シェアサイクルのステーションがもっと増えていけば、更に日常利用が増えていき、沖縄の人の足として、公共交通網の補完ができると考えています。
――― 常識を覆すための地盤作り
「沖縄県民は自転車に乗らない」と思われているからこそ、自転車に対しての交通安全意識はまだまだ低いと思います。
シェアサイクルを浸透させるためには、「安全」「便利」であるというイメージは必須です。
現在実施しているイベントは、実は自治体からの要請が多く、文化の変革にはやはり地元の方々の意識改革も必要だと考えます。
シェアサイクル事業を行う当社には、子どもたちへの自転車の交通安全啓蒙や、警察の方とのタッグによるイベントなど、やらなければならないことは多くありますね。
「自転車に乗らない」を「自転車に乗るのが当たり前」に変えていきたいです。
シェアサイクル事業『CYCY(サイサイ)』の今後の展望
――― 新しい雇用の創出と、地域経済の活性化
ステーションに設置している自転車は、風雨にさらされてすぐにコンディションが悪化してしまいます。
また、電動アシスト自転車なので、バッテリーの交換も必須です。
現在は社内のスタッフで、自転車やステーションのメンテナンスを行っているのですが、シェアサイクルが浸透していけば、新たな雇用の創出に繋がると考えています。
自転車・ステーションのメンテナンスといえば、バッテリー交換、空気点検、ブレーキチェック、サビ落とし、拭き掃除、掃き掃除など、キリがありません。
沖縄県内の様々な事業所とパートナーシップを組み、課題を解決していけば、産業としても成長できると考えています。
雇用創出による地域経済はもちろんのこと、クルマではなかなか行きづらい観光スポットの紹介など、地場産業を盛り上げていけると考えています。
東京エリアでは、来店率がアップされた小売店のデータなどもあるので、ステーションを設置することで誘客につなげたいと思っています。
――― 『CYCY(サイサイ)』という名称とキャラクターにこめた想いは?
沖縄県はインバウンド産業も多く、外国人利用者も想定して名称を考えました。
CYCLINGのCYに、中国語の「簡単に使える」という意味合いを込めて「CYCY」としました。
日本語のお茶の子さいさい!というテンポも感じてもらえたらと思います!
キャラクターは、CYCYという名称を考えている時点から「サイにしたい!」と思っていました。
サイが自転車に乗っているのって、分かりやすいし可愛らしいですよね。
実はまだ名前がついていないので、愛称も募集中です(笑)
――― MaaS事業にのぞむ今後の展望
シェアサイクル事業をスタートしたきっかけは、自分の周りの人たちが暮らしやすくなるようなビジネスをしたい、というところでしたが、「辞書からマイナスの言葉を消す仕事をしたい!」という、ちょっとカッコイイ考えがあります(笑)
「沖縄の人は自転車に乗らない」って、なんだかマイナスを含む常識だなと感じたんです。なので、そういう言葉を消したい。
沖縄の人でも当たり前に自転車に乗るような世の中になってほしいと考えています。
他にも、沖縄の人はメタボというマイナスイメージも一部言われていますが、自転車で健康になって欲しいという思いもあります。
自分が住んでいる場所で、自分の身近なところで、自分や大切な人が暮らしやすい環境を作って行きたいです。
そんな大掛かりなことは自分ではできないと考えているので、手の届く範囲を出来る限り最高の環境にしていきたいですね。
(取材/文・撮影:玉城久子(たまき ひさこ))
株式会社プロトソリューションが2019年10月より開始したシェアサイクル事業です。ICTを活用し、地域に根ざしたシェアサイクル事業を行うことで、観光客の利便性向上を図り、交通渋滞緩和、環境への配慮を目指します。なお、本サービスは、OpenStreet株式会社が提供する自転車シェアリングシステム「HELLO CYCLING」を活用して行います。
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